東浦家の休日























































































































今日は彼氏・深尋とのデートの日。
最近の恒例になった彼とのおうちデートですが、
東浦家へと向かうあなたと深尋の隣に、今日はもうひとりいて……。

「大護……なんでまたお前……」
「やー、だってまた遊びにいくって、前に結人くんと約束しちゃったしー?」

そう言って、深尋の兄の大護はカラッと笑います。

「にしても、超絶人見知りで外に出んのも全力で拒否する深尋が
 ほぼ毎週? 彼女サンの家に遊びに行ってるんでしょ? 
 すごいねえ……愛ってのはここまで人を変えるのかー」
「うるさい。ついてくるなら黙ってろ」
「しかもほら、もう『ついてくるな』って言わないし」
「違っ……お前だけなら絶対許さない。でも、コイツの弟が待ってるんなら……仕方ない」
「ほっほー、結人くんのためにガマンするって? みーちゃんやっさしーい!」
「やっぱ帰れお前」

いつもの賑やかなやり取りを聞きながら歩いているうちに、
やがてあなたの家に到着しました。
『ただいま』と声をかけながら玄関のドアを開けると、
2階から弟の結人がひょこっと顔を覗かせます。

「姉貴おかえりー……って、あ! 大護!」
「やっほー、来ちゃった」

笑顔で手を振る大護を見て、嬉しそうに階段を駆け下りてくる結人。

「待ってたんだよ! この前、新作ソフト出たから一緒にやりたくてさー!」
「あ、やっぱ買ったんだ? 結人くんなら買うかなーと思ってたんだよなあ。
 てかそれはいいんだけど、前にやったゲームのリベンジ戦は?」
「え、別にあれはもう良くない?」
「結人くんが良くてもオレは良くない! 勝ち逃げされたまんまじゃ悔しいじゃん!」
「んだよ、大人げねーなぁ。じゃあやってもいいけど、新しいヤツが先な?」
「おっけ。今回は負けないからなー?」
「ふっふっふ、それはオレに勝ってから言うんだな。
 今日はオレの部屋でやろ! もうつないであるから……」

そこで結人は大護の後ろに立っていた深尋に気づいて、「あれ」と目を瞬かせます。

「なんだ、深尋も来てたのかー。よっ」
「あ……よ」
「おーいもっと元気出せよなー? 
 そんじゃ姉貴、オレと大護は部屋にいるから!」

結人はそう言うと、大護の背を押してバタバタと2階へ上がっていきました。
そんなふたりの後ろ姿を見つめる深尋がどこか羨ましそうに見えて
『深尋も結人のとこ行く?』と声をかけると、深尋はハッとあなたに視線を移します。

「あっ、違う、違うから」

慌てて首を横に振る深尋は、その目に強い決意を浮かべました。

「昨日も言ったろ。今日は……今日こそ……お義父さんに、ちゃんと挨拶するって。
 だから、ゆ……あ、お前の弟とは、また今度」

いつになくハッキリとした口調でそう告げる深尋とともに、
あなたはリビングに向かうのでした。

***

――それから約1時間。
買い物に出ているはずの父・春樹はまだ帰ってきません。

「……遅いな」

深尋の呟きに、『ごめんね、もうすぐ帰ってくると思うんだけど』と答えると
深尋はやわらかく微笑みました。

「平気、お前がいてくれるから」

そう言ってあなたの手を握る深尋。
ふたりの間に甘い空気が流れます。
そっと近づいてくる深尋の顔。それに合わせてあなたが目を伏せようとした、その時……。

「おーい、彰信さんのお出ましだぞー」

静寂を破る声とドアの音。
慌てて身体を離して音のほうを見ると、そこには叔父の彰信が立っていました。

「お?」

彰信と深尋の視線がぶつかります。
初対面の彰信を前にビクリと身体をこわばらせる深尋ですが、
それに対して彰信は、興味深そうな顔で近づいてきました。

「もしかしてうちのお姫さんの彼氏か? ええと、深尋クンだっけ?」
「あ……はい」
「やっぱりそうか。どーも、俺はコイツの親戚のお兄サンです」

『叔父さんでしょ』というあなたの言葉に、彰信は苦笑いを浮かべます。

「こーら、『叔父さん』じゃなくて彰信さんだろ? ってまあ今はそれはいいか。
 この前からちょこちょこ彼氏が来てるって話は聞いてたけど、
 こうして直接会うのは初めてだよなあ。
 ほーうほうほう」

品定めするような彰信の視線に、深尋は居心地悪そうに目を伏せます。

「で、深尋クンは歳いくつ?」
「二十歳、です」
「ハタチかー。てことは大学生?」
「……はい」
「かーっ! わっかいなあ。今が一番いい時だよな」
「……はあ」

目を泳がせる深尋を見てあなたが彰信を止めようとすると、
それに気づいたらしい深尋が、そっとあなたの腕に触れました。

「ありがと。大丈夫」

ぎこちない微笑みを浮かべた深尋は
話題を探すように口をパクパクさせますが、やっぱり言葉は出てきません。
そして静かに立ち上がります。

「すみません、ちょっとトイレ……」
「おー、行っといで。リビング出て右手側のドアな」

ペコリと頭を下げてリビングを出ていく深尋。
ドアが閉まると、彰信がニヤニヤとあなたを見ます。

「なかなかの色男つかまえたじゃねえか。やったな」

『叔父さん、深尋を困らせないで』というあなたの言葉に、彰信は肩をすくめました。

「おーおー、恐い顔して。別に困らせるつもりなんかないぞ? 
 俺はお前の身内として、未来の家族と少しでも交流を深めようとしてるだけで。
 それで、彼氏クンとはうまくいってんのか?」

その問いかけに応えないでいると、彰信に顔を覗きこまれます。

「なぁんだよ、無視しやがって。
 こういうこと聞かれたくないなら部屋にいればいいだろうに。
 リビングにいるってことは、何かしらの接触を求めてたと受け取って当然だろ? 
 それともなんだ、もしかして春樹待ってんのか? アイツ今どこ? 買い物?」

うなずくあなたを見て、彰信はニヤリと笑います。

「そうか。よし、じゃあ春樹が帰ってくるまで
 あの彼氏がお前にふさわしいかどうか俺が見定めてやろう」

『だからいいってば!』と怒るあなたには構わず、彰信はあなたに手を伸ばします。

「なーに言ってんだよ、いいわけないだろ? 
 いいから……ほら、こっち来い」

そう言ってあなたを膝に抱き上げる彰信。
そのままそっと頭を抱き寄せられます。

「可愛いお前がつらい思いをするのは耐えられないからな。
 そういうことがないように、俺がちゃんと見極めてやるから……」

その瞬間、リビングのドアが開きました。
彰信の膝に乗るあなたを見て、深尋がピタリと動きを止めます。
慌てるあなたの耳元にスッと顔を寄せてくる彰信。そしてこう囁きます。

「この状況を見て、向こうがどんな反応するか……
 それでだいたいの人間性が見えてくるんだ。な……いい案だろ?」

『そんな試すようなことしたくない!』とあなたが身をよじっていると、
ふいに出入り口のほうで深尋とは別の気配がしました。

「……彰信?」

地を這うような低い声に、彰信の肩がビクリと揺れます。

「そ、その声は……」

見ると、そこには静かな怒りをたたえる春樹の姿が……。

「僕が出かけてる間に、何やってるの……?」
「や、こ、これは……」

彰信は慌ててあなたを膝から下ろすと、ソファを離れて土下座しました。

「すみませんでした」
「何? 誰も土下座しろなんて言ってないよ」
「あ、いえ、その……これは自分なりの誠意といいますか……」
「誠意? 誠意って言った? 
 そんなものが君の中にあるのなら、どうして
 土下座しなければならないようなことを自らしてしまうんだろう。おかしいよね?」
「あ、はい……そうですよね……」
「『そうですよね』じゃないだろう」
「はい、すみません。すみません」

見ているほうがヒヤヒヤするようなやり取りを続ける春樹と彰信。
その横を通り抜けてやってきた深尋は、無言できゅっとあなたを抱き寄せます。

『お父さんに見られるかも……』と気にするあなたですが、
土下座する彰信を冷やかに見下ろしている春樹はこちらに気づいていません。
すると耳元でポツリと深尋の声が聞こえます。

「どういう流れでああなったのかわかんないし、
 家族と仲いいの知ってるから……もういいけど、
 これからは、家族でも……俺以外の男に抱きしめられるの禁止」

その言葉に小さくうなずいて応えながら、あなたは
『深尋とお父さんがちゃんと話せるのはいつなんだろう……』
と考えてため息をつくのでした。


END